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札幌高等裁判所 昭和27年(ネ)197号 判決

控訴人 原告 久島久

訴訟代理人 中田克己知 外二名

被控訴人 被告 株式会社北海道拓殖銀行 代表取締役 広瀬経一

訴訟代理人 富田政儀 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二〇万円及びこれに対する昭和二六年一一月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の陳述は、次のとおりである。

第二控訴人の陳述

(請求の原因)

一(一)  控訴人は、昭和二六年二月二七日、訴外北海道財務局釧路財務部長あてに控訴人が同財務部から購入する「アカンナベ」の代金前払として金二〇万円を送金するため、訴外株式会社第一銀行札幌支店に対し電信為替による送金方を委託し、同時に、同額の金員を同支店に交付した。第一銀行札幌支店は、右金員を受領して控訴人の委託を承諾し、ここに、控訴人と第一銀行との間に金二〇万円の電信為替による送金契約が成立した。

(二)  第一銀行は、右同日、被控訴銀行との為替取組契約に従い、被控訴銀行釧路支店に対し、控訴人のために右為替金を受取人である釧路財務部長に支払うことを委託し、同支店はこれを承諾した。一方、控訴人は、釧路財務部長宛てに打電し、金二〇万円を同支店から受け取るべき旨通知した。

(三)  控訴人、第一銀行及び被控訴銀行三者の関係は、控訴人において第一銀行に対し釧路までの送金を委託するとともに、釧路財務部長への前記前払代金債務弁済という準法律行為を委託(準委任)し、かつ、その行為について控訴人を代理する権限を与え、第一銀行は右代理権に基いて被控訴銀行に対し、両銀行間の為替取組契約に従い、控訴人のために釧路財務部長に金二〇万円を支払うことを委任したという関係である。したがつて、被控訴銀行は控訴人に対して、第一銀行と同一の債務すなわち、控訴人のために金二〇万円を釧路財務部長に支払うという受任者としての義務を負担するに至つたものである。

(四)  しかるに被控訴銀行釧路支店は、いまだ、金二〇万円を釧路財務部長に支払つておらず、その受託事務を終了していない。すなわち、

(五)(1)  昭和二六年三月七日、被控訴銀行釧路支店は、控訴人が釧路財務部長にあてて打電した「マル二〇マンクシロタクギンヨリトレヒサジマヒサシ」という電報(乙第一号証の二)を持参して同支店に出頭し訴外佐藤武の預金口座に第一銀行から送られた金二〇万円を振り替えたのであるが、右振替は、受取人である釧路財務部長に対する支払とならないこと勿論である。

(2)  また、右振替に当つて、佐藤武が同支店に提出した釧路財務部長名義の受取(証乙第一号証の一)は佐藤が偽造したものであるから、同財務部長に対する有効な支払とはなりえない。

(3)  また、同支店の係員三浦徹が銀行員として充分な注意をしたならば、佐藤武が釧路財務部長から受領権限を正当に譲り受けたものでないことはもとより、その正当な代理人でもなく、その受領に関する使者でもなかつたことが看取しえたのにかかわらず、銀行員としてなすべき注意義務を怠つたのであるから、佐藤武の予金口座への振替は、同支店の係員の重大な過失に基くものというべく、債権の準占有者に対する支払ともなりえない。

(4)  訴外第一銀行と被控訴銀行との間で、電信送金依頼書に符合した電報送達紙持参人を受取人とみなして支払をするという趣旨の定めがあるとしても、控訴人は第一銀行に対し、そのようにして支払つても異議ない旨の約束をしたことはない。なるほど、第一銀行と被控訴銀行との間に取りかわされている電信為替取引契約書(乙第八号証の一、二)第四条にはそのような趣旨の規定はあるが、これは控訴人に関係のないものであつて、このような第三者間同志の契約で控訴人が拘束される筋合のものではない。

(5)  仮りに控訴人が右の規定に拘束されるとしても、右規定の趣旨は電報送達紙持参人を正当受取権者とみなすという意味であるから、電報送達紙持参人に電信為替金を交付する場合には、持参人自身の名前を記載した受領証を提出させるべきである。被控訴銀行釧路支店としては、持参人である訴外佐藤から、佐藤自身の記名捺印ある受領証を提出させるべきであつた。しかるに、同支店が佐藤をして釧路財務部長名義の受領証を提出させたことは、佐藤を同財務部長の単なる使者と見ていたものというべく、同財務部長から電信為替金の受領権を譲り受けた正当な受領権者と認めていなかつたことを表わしている。それなのに、同支店は釧路財務部長の承諾を得ずに、電信為替金を佐藤の口座に振り替えたのであるから、同支店は本件電信為替金を支払つたことにならない。

(六)  以上のとおり、被控訴銀行は控訴人に対する受託事務の処理をいまだ終了していないので、控訴人は、原審において提出した昭和二七年二月一四日付準備書面をもつて、控訴人と被控訴銀行との間の委任契約を解除する旨の意思表示をし、同準備書面はその頃被控訴代理人によつて副本を受領され、相手方に到達したので、控訴人は被控訴銀行に対し、第一銀行を通じて交付した金二〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和二六年一一月七日から年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(債権者代位権に基く予備的請求原因)

二 仮りに、控訴人と被控訴銀行との間に直接の委任関係が成立せず、控訴人と第一銀行との間にのみ委任関係が成立したとしても、第一銀行と被控訴銀行との関係も、第一銀行が被控訴銀行に対し、控訴人のために金二〇万円を釧路財務部長に支払うことを委任したという関係にある。そして、前記のような事情のもとでは、被控訴銀行は第一銀行からの受託事務を終了したことにならず、したがつて第一銀行の控訴人に対する受託事務も未終了であるので、控訴人は、昭和二八年五月四日、内容証明郵便をもつて第一銀行札幌支店に対し電信為替送金委任契約を解除する旨の意思表示をし、右郵便は、その頃、同支店に到達した。よつて、第一銀行と被控訴銀行との委任契約も当然に解除されたので、控訴人は第一銀行に対し、先に交付した金二〇万円の返還請求権を有し、第一銀行もまた被控訴銀行に対し、同額の金員の返還請求権を有するに至つている。しかるに、第一銀行は、控訴人に対して金二〇万円を返還しないのみならず被控訴銀行に対する返還請求権を行使しないので、控訴人は第一銀行に対する債権者として、同銀行が被控訴銀行に対して有する金二〇万円の返還請求権を代位して行使する。

(商法第五七九条による予備的請求原因)

三 仮りに以上の主張がすべて理由ないとしても、第一銀行と被控訴銀行とは、本件金二〇万円の送金及び支払については、いわゆる相次運送人の関係に立つている。同条は物品運送についての規定であること明らかであるが、送金についても右規定を類推適用すべきである。金銭の場合には代替性を有するところから、特殊な技術的操作によつて、委託された金銭と同一の金銭を動かす必要がなく、送金先の支払銀行の手を通じて所期の目的を達するようにできているに過ぎない。したがつて、本件金二〇万円を受取人である釧路財務部長に支払うことについて、第一銀行と被控訴銀行とは、控訴人に対し連帯して責任を負う立場にある。しかるに、本件金二〇万円が被控訴銀行釧路支店の手により、訴外佐藤武の預金口座に振替えられ、正当な受取人である釧路財務部長に到達しないでしまつたことは、前記のとおりである。右は、あたかも、物品運送の場合に運送品が荷送人指定の荷受人に引渡されなかつたと同様であり、前記法条にいわゆる運送品の滅失に当ると解される。

よつて、控訴人は被控訴銀行に対し、損害賠償として金二〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から年五分の割合による金員を訴外第一銀行と連帯して支払うことを求める。

第三被控訴銀行の陳述

(各請求原因に対する答弁)

一  控訴人主張の請求原因並びに予備的請求原因事実中、控訴人がその主張のように、昭和二六年二月二七日、訴外釧路財務部長を受取人として訴外第一銀行札幌支店に対し、電信為替による金二〇万円の送金を委託し、同支店がこれを受諾して金二〇万円を控訴人から受領したこと、同日、第一銀行札幌支店が被控訴銀行釧路支店に対し右委託金員について電信為替取組をしたこと及び控訴人が釧路財務部長にあてた右為替金を被控訴銀行釧路支店から受け取るべき旨を電報で通知したこと並びに同支店が、右為替金を訴外佐藤武の預金口座に振り替えたことは、いずれも認めるが、その余の事実はすべて争う。すなわち、

二(一)  第一銀行と被控訴銀行との関係は、控訴人主張のような関係ではない。両銀行間の電信為替取引は、両銀行が銀行法の定める独自の為替業務として、乙第八号証の一、二の契約すなわち電信為替取引契約に従つて行われたもので、第一銀行が控訴人を代理して被控訴銀行に金銭交付行為を委託したものではない。控訴人は、右取引につき第三者の立場にある。したがつて、仮りに控訴人と第一銀行との間の委任契約が解除されても、その効果は当然には被控訴銀行に及ばず、被控訴銀行が第一銀行に対し金員を返還する義務を負うという性質のものではない。

(二)  また、被控訴銀行釧路支店が訴外佐藤武に為替金の支払をしたのは、被控訴銀行と第一銀行との間の前記電信為替取引契約に基き、電信為替取組案内に符合する電報送達紙の持参人であり、また送金受取人名義の受取証を持参した者に支払つたのである。控訴人も第一銀行札幌支店に電信送金を委託するに当り、電報送達紙持参人に支払われることを異議なく承諾したのであるし、また、それが銀行業者の慣習であるから、右支払は有効である。なお、電信為替金が佐藤武の預金口座に振り替えられたことは、一旦、同人において為替金を受け取り、その受け取つた金員を直ちに被控訴銀行に預け入れたに過ぎない。

(三)  また、商法第五七九条は、荷送人及び荷受人の保護を目的とする相次運送に関する特殊規定であり、厳格に解すべきものと考えるから、本件事実に類推適用すべきではない。

第四証拠関係

一  控訴代理人は、甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四、第五号証を提出し、原審証人千葉正雄、原審並びに当審証人朝妻幸志(当審は、第一回)、当審証人松原平三郎、久島ミヤの各証言を採用し、乙第一号証の二、第五号証から第七号証、第八号証の一、二の各成立を認め、乙第八号証の一、二を利益に援用する、乙第一号証の一の成立は否認する、その余の乙号各証の成立は知らないと述べた。

二  被控訴銀行代理人は、乙第一号証の一、二、第二号証から第七号証まで及び第八号証の一、二を提出し、原審証人三浦徹、原審並びに当審証人朝妻幸志(当審は、第二回)当審証人高喜久男の各証言を援用し、甲号各証の成立を認め、甲第四号証を利益に援用すると述べた。

理由

(当事者間に争いのない事実)

一  控訴人が、昭和二六年二月二七日、訴外北海道財務局釧路財務部長を受取人として、訴外第一銀行札幌支店に電信為替による金二〇万円の送金方を委託し、同支店がこれを受諾して右金員を受領したこと、同日、控訴人が釧路財務部長あてに、右為替金二〇万円を被控訴銀行釧路支店から受け取るべき旨、電報で通知したこと及び同支店が右為替金を訴外佐藤武の同支店における預金口座に振り替えたことは、いずれも当時者間に争いがない。

(本件における電信為替送金取引契約の内容及びその成立)

二(一) 控訴人は、第一銀行に対しては、釧路までの送金を委託するとともに控訴人の釧路財務部長に対する債務の弁済を委任し、かつ、そのために控訴人を代理する権限を与え、第一銀行は、右代理権に基いて被控訴銀行釧路支店に対し、両銀行間に存する為替取組契約に従い、控訴人のために右弁済行為を再委任したものであると主張するので、まず、送金依頼人である控訴人と仕向銀行である訴外第一銀行札幌支店と被仕向銀行である被控訴銀行釧路支店との間のそれぞれの契約がいかなる内容のものであるかを考察してみるに、

成立について争いのない乙第一号証の二、第五号証から第七号証まで及び第八号証の一、二、原審証人朝妻幸志の証言によつて成立を認めうる乙第二、第四号証、原審証人三浦徹の証言によつて成立を認めうる乙第三号証、原審並びに当審証人朝妻幸志(当審は、第一、二回)、原審証人三浦徹、当審証人高喜久男の各証言を綜合すれば、本件における送金依頼人たる控訴人、仕向銀行である訴外第一銀行及び被仕向銀行である被控訴銀行の関係は、次のとおりであることが認められる。すなわち、

(二)(仕向銀行と被仕向銀行の取引)訴外第一銀行と被控訴銀行との間には、昭和二四年九月一日付の「為替取引契約」を基礎とした右同日付の「電信為替取引契約」が締結されており、右両契約によれば、契約条項として(1) 両銀行相互間で電信送金並びに電信当座口振込の取扱をすること、(2) 電信為替の取組又は電信当座口振込は、別に定めた電信暗号により、即時照校電報をもつて相手へ通知し、さらに書面をもつて再報すること、(3) 電信為替の支払店(すなわち、被仕向銀行)は、取組案内に符合する電報送達紙を提出した者を正当受取人と認め、これに対して支払をするものとすること、(4) 電信の誤謬によつて生じた損害は、すべて仕向店(すなわち、仕向銀行)の負担となるが、支払店が相当の注意を欠いたときはその限りでないこと、(5) 電信為替取引は、取引店一方の都合により、いつでも通知のみをもつてこれを一時中止することができること、(6) 電信為替取引に基く相互間の貸借の決済は、日本銀行の内国為替集中決済によること、(7) 為替金の受払は、為替報告をもつて即日、これを相手店に通知すること、但しその報告はこれを省略することができること等の条項が定められている。

そして、両銀行間における電信為替送金取引の実際の運用は次のとおりである。仕向銀行が依頼人から電信為替送金の依頼を受けて受領した金員は、同銀行の未決済為替借勘定にいれて保管する。仕向銀行は、送金受取人、送金金額及び送金取組番号を暗号文をもつて表わした送金取組案内電報を被仕向銀行あてに打電し、さらに送金取組報告書を送付する。被仕向銀行は、依頼人が受取人あてに打電した電報送達紙を持参した者があるときは右電報送達紙が仕向銀行からの取組案内に符合するかどうかを確かめ、符合するときは、電報送達紙持参人から領収証(乙第一号証の一の様式によるもの)を徴して取組案内記載の金員をこれに交付し、決済ずみの為替内訳書(乙第六号証)を作成して日本銀行に提出する。日本銀行における国内為替集中決済規定によつて決済されたのち、右内訳書は仕向銀行に回付され、仕向銀行においても、送金依頼人からの受託事務を決済することになる。

仕向銀行が被仕向銀行に対して送金手続をしたが、被仕向銀行において受取人に交付することができなかつた場合、あるいは送金依頼人の都合によつて送金を中止する場合において、送金依頼人が依頼した金員を取り戻すためには、依頼人は、送金依頼の際に仕向銀行から受け取つた取組電信送金受取証(甲第一号証)を同銀行に返戻して解約を申し入れ、仕向銀行から被仕向銀行に対し、取組戻し、換言すれば、当該電信為替送金取引中止をするから支払をしないようにとの通知を発し、それに対して被仕向銀行から承諾した旨の通知があることを要する。しかし、すでに被仕向銀行が電報送達紙持参人に為替金を交付してしまつておれば、取組戻しはできない取扱になつている。

(三) (送金依頼人と仕向銀行の取引)以上のような仕向銀行と被仕向銀行との間の電信為替送金契約を前提として送金依頼人が電信為替送金をしようとするときには、まず、仕向銀行に備え付けてある電信送金依頼書(乙第二、第五号証)に必要事項を記入し、現金を添え、かつ所要手数料を支払つて仕向銀行に電信送金を委託するのであるが、右電信送金依頼書には電信の指定(至急電報か普通電報かの区別)、支払地銀行名すなわち被仕向銀行名、送金金額、送金受取人の氏名及び送金依頼人の住所氏名を記入するようになつており、右用紙には、「貴行御所定ノ手続ニ依リ右電信送金御取組被下度就テハ支払銀行ニ於テ前記ノ要領ニ符合シタル電報送達紙持参ノ者ヲ受取人ト看做シ御支払相成異議無之候尚電信ノ遅延、誤謬其ノ他ノ事故ニ因ル損害ハ拙者ニ於テ一切引受可申候」という不動文字が印刷されている。これに対して仕向銀行は、「上記金額電信送金依頼書記載ノ条件ニ依リ正ニ受取候也」との不動文字の記載された取組電信送金受取証(甲第一号証)を依頼人に交付し、ここに送金依頼人と仕向銀行との間の電信為替送金契約が成立する。一方、依頼人は、仕向銀行の指示と取組電信送金受領証に記載された「貴殿ヨリ受取人宛案内電報御発信被下度候」との文言に従つて、受取人あてに、被仕向銀行から為替金を受け取るようにとの電報(乙第一号証の二)を発信することになるのである。

(四) (各電信為替送金契約の成立)そして、前掲各証拠に前記争いのない事実を綜合すれば、控訴人は、以上摘示のような契約内容及び手続に従つて、昭和二六年二月二七日、訴外第一銀行札幌支店を仕向銀行として二〇万円の電信為替送金を委託し、訴外第一銀行札幌支店はこれを承諾して、直ちに、被控訴銀行釧路支店に対し、前示契約内容により送金取組すなわち電信為替送金契約をしたことが認められる。

当審証人久島ミヤは、控訴人の使者として訴外第一銀行札幌支店に電信送金を申込むに当り、前記電信送金依頼書(乙第五号証)に印刷記載されていた不動文字を読みもせず、同支店の係員から内容を指示されもしなかつたと証言しているけれども、前叙のような本件電信為替送金契約は一種の附合契約と解せられるから、前記送金依頼書(乙第五号証)における程度の表示がある以上、特に本件契約に従わないとする当事者の特別な意思表示のない限り、個々の契約条款の知不知にかかわらず、控訴人と訴外第一銀行との間には前記の内容を有する契約が成立したと推定すべきである。本件においては右特別な意思表示のあつたことを認めるに足る証拠はない。

(送金依頼人、仕向銀行及び被仕向銀行三者の各法律関係)

三(一) しからば、前示内容において成立した送金依頼人である控訴人と仕向銀行である訴外第一銀行との契約、及び同銀行と被仕向銀行である被控訴銀行との契約はいかなる性質のものであるかというに、

(二) (送金依頼人と仕向銀行の関係)控訴人と訴外第一銀行との関係は、控訴人が第一銀行に対し、同銀行と被控訴銀行との間で文書により、あるいは実務の運用によつて締結されている電信為替送金契約の定める手続に従つて送金受取人である釧路財務部長に金二〇万円を交付することを委託し、第一銀行がこれを受諾して成立した委任契約関係であり、控訴人が第一銀行札幌支店に交付した二〇万円は委任事務を処理するための金銭であると解すべきである。

(三) (仕向銀行と被仕向銀行との関係)しかして、第一銀行と被控訴銀行との関係は、第一銀行が被控訴銀行に指図し、第一銀行の計算すなわち支払責任において電報送達紙持参人に為替金を支払わせるという支払授権を含む、委任契約に胚胎する特殊な契約関係であり、第一銀行が控訴人を代理して被控訴銀行に送金事務を委任するものではなく、送金依頼人と被仕向銀行である被控訴銀行との間には直接の権利義務関係を発生せしめるものではないと解せられる。

したがつて、本件電信為替送金契約の解釈として、仕向銀行は送金依頼人から送金事務を委任されると同時に委任事務処理についての代理権を授与され、その代理権に基いて被仕向銀行に送金事務を再委任し、かつ、被仕向銀行を送金依頼人の復代理人たらしめるものであるとの解釈、あるいはまた、仕向銀行と被仕向銀行との関係は、仕向銀行が被仕向銀行をして送金依頼人のために電報送達紙持参人に委託金を支払わせるという第三者のためにする契約であり、第三者である送金依頼人の受益の意思表示は、送金依頼のときに表示されているとか、この場合には受益の意思表示をまたずに当然に権利を取得させるものとする解釈は、これを採ることができない。

(契約解除の主張について)

四 控訴人は、第一の主張として、被仕向銀行である被控訴銀行の受任事務未終了を理由に、直接被控訴銀行に対し委任契約解除の意思表示をしたと主張するのであるが、以上判断したように、送金依頼人である控訴人と被仕向銀行である被控訴銀行との間には、委任者、受任者という直接の法律関係は発生していないのであるから、控訴人のいう契約解除の意思表示はなんらの効力をも生じない。控訴人の右主張は、理由がない。

(債権者代位の主張について)

五(一) (債権者代位の可能性)控訴人は、第二の主張として、被仕向銀行である被控訴銀行の釧路支店が、電報送達紙持参人である訴外佐藤武の同支店における預金口座に本件為替金を振り替えたのは、その主張するような各種の理由により、受取人である釧路財務部長に支払つたことにならない、したがつて、仕向銀行である訴外第一銀行の、送金依頼人である控訴人に対する受任事務は終了していない、よつて、控訴人は、訴外第一銀行との委任契約を解除し、第一銀行の被控訴銀行に対する為替金二〇万円の返還請求権を代位行使すると主張するので、この点について考えてみる。

前叙のように、電信為替送金契約における送金依頼人と仕向銀行との関係は委任契約関係であり、仕向銀行と被仕向銀行との関係も委任契約に胚胎する契約関係であるが、両契約は、各独立した法律関係で、前記認定の契約内容によれば、仕向銀行と被仕向銀行との間における個別的な電信為替送金契約の解約は、両銀行間の契約によつて定められた中止方法、換言すれば、仕向銀行の被仕向銀行に対する当該電信為替送金取引を中止し、支払指図を取り消す旨の意思表示によらなければならず、送金依頼人が仕向銀行に対して受任事務未終了を理由に委任契約を解除しても、その効果は当然に仕向銀行と被仕向銀行との間の契約関係を終了せしめるものではない。

しかしながら、被仕向銀行が仕向銀行に対して受諾した事務を完了せず、したがつて仕向銀行の送金依頼人に対する受任事務がいまだ終了していないと認められる場合において、送金依頼人が仕向銀行との委任契約を解除しうることはいうまでもないし、その場合、前記契約内容に従えば仕向銀行が被仕向銀行との当該電信為替取引契約を解約することができるのにかかわらずその解約をしないときは、送金依頼人はこの解約権を仕向銀行に対する債権者として代位行使することができる筋合である。

さらにまた、被仕向銀行が仕向銀行に対する受託事務を終了していないのにかかわらず、内国為替集中決済機関を通じて指図にかかる為替金員相当額を受け取つておれば、仕向銀行は当該電信為替送金契約を解約すると同時に右金員相当額を不当利得金としてその返還を請求できることになり、右のような場合には、送金依頼人は仕向銀行に対する債権者として右不当利得金返還請求権をも代位行使することができるといわなければならない。

右いずれの場合においても、送金依頼人が仕向銀行に代位するための基本債権は、もとより送金依頼人が仕向銀行に対して有する、先に交付した為替金の返還請求権である。

そこで次に、本件においては、はたして控訴人が仕向銀行である訴外第一銀行の右解約権を代位行使することができるかどうか、その前提として、被仕向銀行である被控訴銀行の仕向銀行である訴外第一銀行に対する受託事務が未終了であるかどうかを判断しなければならない。

(二) (本件契約における免責条款の解釈)本件における電信為替送金契約の内容は、前示のとおりである。しかしてそれは、現代社会生活において必須の機関であり、かつまた厖大な機構を擁する機関である銀行を利用して、現実に現金を動かすことなく、隔地者間において大量の金員を迅速に移動させるために考案された制度であることは公知の事実というべく、いわゆる普通取引条款たる性格を有し、その本質上おのずから債務の履行について免責条款をそのうちに含むものである。本件における訴外第一銀行と被控訴銀行との間に締結されている電信送金為替契約第四条には、「電信為替ノ支払店ハ取組案内ニ符合スル電報送達紙ヲ提出シタル者ヲ正当受取人ト認メ之ニ対シ支払ヲ為スモノトス」との条項があり、仕向銀行が送金依頼人に提出を求める電信送金依頼書(乙第五号証。)には「電報送達紙持参ノ者ヲ受取人ト看做シ御支払相成異議無之候」との文言が不動文字として印刷記載されているのであるが、右はまさに、仕向銀行の送金依頼人に対する債務、被仕向銀行の仕向銀行に対する債務について、かかる免責条款に従う限り債務不履行としての責任を負わないことを示し、特に前者は委任契約に基く債務であり、後者は委任契約に胚胎する契約に基く債務であるから、仕向銀行も被仕向銀行も、右免責条款に従う限り、それぞれの受託事務の終了を主張できるものと解せられる。

しかしながら、右の免責条款は、被仕向銀行が電報送達紙の持参人に為替金を交付したときには、いかなる場合においても、その受任事務を終了したことになり、したがつて仕向銀行は送金依頼人に対する受任事務を終了したことになるという内容を有するものとは解せられない。

すなわち、本件電信為替送金契約の前示のような内容自体によつても、被仕向銀行が電報送達紙持参人に為替金を支払うより前に、仕向銀行からの当該取引中止(取組戻。)の意思表示が到達していたときにそのことを知りながら故意に支払つたとき及び相当の注意を欠いたために取組案内電報の誤謬を発見できずして支払つたときにはいずれも免責を主張することができないこと、おのずから明らかであるのみならず、

普通取引条款の性格を有する契約のうちの免責条款の解釈に当つては、その取引条款が社会機構全般において有する使命を考え、一方においては、時間節約、大量取引、費用節減等社会生活向上のために果す企業並びに制度の維持という点を考慮しつつも、その合理的存在理由を超えて免責条款を適用すべきものではなく、制度維持のために制度利用者の受忍しなければならぬ合理的な危険負担の範囲内において適用されるものと解釈しなければならないから、換言すれば、民法第一条の解釈原理は、本件における電信為替金契約においても適用せらるべきであるから、前記の免責条款も、被仕向銀行において、電報送達紙の持参人に為替金を支払うことが明らかに送金受取人又は送金依頼人を害するものなることを知つているとき、もしくはそのことを知らなかつたことについて重大なる過失があると認められるときには、その適用をみないものと解しなければならない。

(三) (本件における免責条款主張の当否並びに債権者代位の適否)よつて、右の観点から、被仕向銀行である被控訴銀行が、前記の免責条款を主張して受託事務終了を主張しうるかどうか並びに控訴人はその主張のような債権者代位権を行使できるかどうかを事実に照らして考えてみるに、

成立について争のない甲第五号証によれば、控訴人は、仕向銀行である訴外第一銀行札幌支店に対して、昭和二八年五月四日、委任事務未終了を理由に同銀行との送金委任契約を解除する旨の通知をしたことが認められるし、また、右通知がその頃同支店に到達したこと及び同支店が被仕向銀行である被控訴銀行の釧路支店に対し電信為替送金取引を中止せず、内国為替集中決済機関を通じて被控訴銀行にすでに支払つた為替金二〇万円の返還を請求していないことは、弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。したがつて、控訴人は、前記の意味において被控訴銀行がその受託事務を終了していないとすれば、訴外第一銀行に対し金二〇万円の返還を請求しうる立場にある。

しかしながら、成立について争いのない甲第三号証の一、二、同第四号証及び乙第一号証の二、同第六号証、原審証人千葉正雄、当審証人松原平三郎の各証言並びに右各証言によつて訴外佐藤武が偽造したものであることの認められる乙第一号証の一の存在及び原審証人三浦徹の証言を綜合すると、次の事実が認められるのである。すなわち、

控訴人が釧路財務部長あてに打電した、被控訴銀行釧路支店から金二〇万円を受けとるべき旨の電報送達紙(乙第一号証の二。)は、昭和二六年二月二七日、釧路財務部に到達したが、釧路財務部としては控訴人主張のような売買契約は存在せず、その他控訴人から金を受けとる理由がなかつたので、屑鉄売買等を営む控訴人の釧路方面における現場代理人として同財務部にその旨届けでられていた訴外佐藤武(甲第四号証。)に対し、本人である控訴人に本件電報送達紙を返す意味でこれを交付したところ、佐藤武は、同年三月九日、右電報送達紙を被仕向銀行である被控訴銀行釧路支店に持参し、これを同支店に呈示し、本件為替金を受け取ろうとした。

訴外佐藤武が同店に出頭したときに、同支店の係員三浦徹は、佐藤が釧路財務部の職員でないことを知つていたので、釧路財務部長名義の受領証を提出するように要求して、一旦は同人をひきとらせたのであるが、同財務部に電話で問い合せたところ、財務部では、受け取れない金だから受領証に財務部長の印は押せないと返答したこと、しかし、佐藤武に支払つてもよいという返答は与えたこと(この点につき、原審証人三浦徹は、財務部の中島という者がそう言つたと証言し、当審証人松原平三郎は、財務部には当時中島という者はおらなかつたと証言し、三浦の証言の信憑性に疑がないでもないが、右に認定の経過、特に財務部が佐藤武に電報送達紙を交付したという動かすことのできない事実と、原審証人千葉正男並びに右当審証人松原平三郎の証言によつても、積極的に財務部として、佐藤に二〇万円を交付することを差し止めた事実はこれを認めることができないこととを合せ考えると、証人三浦徹の証言中、中島なる者が言つたとの点だけは同人の記憶違いであろうとの心証とならざるをえない。)、右のようなやりとりがあつたのち、一旦引き取つた佐藤は、いかなる手段によつたのか不明であるが、釧路財務部長近藤公男名義で、近藤の偽造印の押捺してある領収証を持参してこれを前記支店の係員である三浦徹に提出したので、三浦は佐藤にすすめて本件為替金を同人の当座預金口座に振り替えて支払つたのである。右認定の事実を覆すに足る証拠及び被控訴銀行釧路支店が佐藤に支払う前に、仕向銀行である訴外第一銀行から同支店に対し取引中止の意思表示がなされたとの事実及び取組案内電報の誤謬の存在を認めうる証拠はない。

以上認定の事実及び前叙のような内容の本件電信送金取引においては、被仕向銀行が送金依頼人と受取人との取引関係、換言すれば電信送金の原因関係を知る手段のない事実とを合せ考えれば、被仕向銀行である被控訴銀行としては、電報送達紙持参人である訴外佐藤武に本件為替金二〇万円を支払つたことについて本件契約に定められた前掲の免責条款を援用し、自己の受託事務終了を主張することができる立場にあると解すべきである。

もつとも、前記認定の事実によれば、被控訴銀行釧路支店の係員三浦徹が訴外佐藤武から徴収した為替金の受取証(乙第一号の一)には、公職の釧路財務部長の肩書がありながら、同財務部長近藤公男の職印ではなく、佐藤が偽造した近藤なる旨の個人印が押捺されていることになり、銀行員としては、注意を欠いたように考えられないではないけれども、佐藤武に本件為替金を支払うに至つた前記認定の経過、すなわち被控訴銀行釧路支店の係員において、本件電報送達紙が受取人の意思に反することなくその所持を離れたものなることを認識してその持参人に支払つた事実に照らし合せると、そのことだけでは被控訴銀行に重大な過失の責任を負わせることができない。

(四) なお、控訴人は、被控訴銀行釧路支店が佐藤武の預金口座に本件為替金を振り替えたのは電信為替金の支払にならないと主張するが、前記認定の事実によれば、それは、同支店が支払と預入とを同時に取り扱つただけのことであるから、右主張はなんら理由がない。また、控訴人は、送金受取人が被仕向銀行に対し為替金請求債権を有することを前提とし、被控訴銀行の佐藤武に対する支払は債権の準占有者に対する弁済とはならないから、支払がなされていないと主張するけれども、前示のような電信為替金契約にあつては、送金受取人は被仕向銀行に対して為替金を直接請求しうる債権を取得するものではないと解せられるので、この主張も採ることをえない。

(五) しからば、被仕向銀行たる被控訴銀行としては、仕向銀行との関係において受任事務を終了したものというべく、したがつて仕向銀行も送金依頼人に対して受任事務を終了したものというべきであるから、委任事務の未終了を前提とする控訴人の代位権行使の主張は、これを排斥しなければならない。

(相次運送に関する商法第五七九条準用の主張について)

六 しかして、電信為替送金契約においては、前記認定のとおり、送金依頼人から委託された金員は被仕向銀行において同額の金員が支払われ、内国為替集中決済制度によつて決済されるまでは、仕向銀行において保管されるものであり、被仕向銀行の行う行為は、電報送達紙持参人に同額の金員を仕向銀行の計算において支払うという事務であつて、現実に物品を所持し、物品をめぐつて諸種の法律関係の発生を予想する商法第五七九条にいわゆる相次運送人における法律関係とはその性質を異にするのみならず、電信為替送金契約には、前述のように、特殊な免責条款が含まれているのであるから、右法条は、電信為替送金契約に準用するのは適当ではない。この点についての控訴人の主張も理由がない。

(むすび)

七 以上のとおりであるから、控訴人の被控訴銀行に対する請求は、その理由なきものとして棄却せざるをえず、これと同旨にでた原判決は相当である。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石谷三郎 裁判官 立岡安正 裁判官 岡成人)

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